兵庫洲本殺人事件に思う、デマと私刑の危険性
2015/03/11
兵庫県淡路島の洲本市で5人を殺害する事件が起きた。犯人は平野達彦容疑者(無職40歳)とのこと。
この事件の動機とみられる書き込みがあるのだが、これがまた常軌を逸している。平野容疑者のツイッターのプロフィールにはこう書かれている。
「日本に来訪の外国人や日本国民全員をスパイとして使用する為に、日本政府は何十年も前から各地で電磁波犯罪とギャングストーキングを行っています。日本政府は米軍ユダヤと共謀しています」
さらに事件前日にはツイッターでは、
「各地で、電磁波犯罪と集団ストーカーを行っている」
として、ある宗教団体の「信者一家」の住所を公開。ちなみにこの住所は事件現場と同一とのこと。つまり殺害の動機はこれで間違いないだろう。
ちなみにこれらのツイートを調べてみたところ、いわゆる「陰謀論」だそうだ。つまり事実確認がされていないことであり、デマである可能性も濃厚だ。真偽が分からないにも関わらず平野容疑者は5人もの人を殺害したわけだ(そもそも、いかなる理由があっても殺人など認められるわけがないのだが・・・)。
デマを流せば私刑によって人が殺される
犯行の動機とされる内容は事実確認がされていない以上、これがデマ(嘘)であったとしても5人は殺害されていただろう。恐ろしい話だ(以降デマであると仮定して話を進める)。
1億人が住む日本なのだからその内の1,000人、10,000人ぐらいは平野容疑者と同じように真偽の分からない情報を信じ込み過激な行動を起こす人がいるはずだ。中韓に対するヘイトスピーチを見れば明白だ。ヘイトスピーチのネタの多くは真偽が明らかになっていないものばかりだ。しかし、それを信じ込み連日ヘイトスピーチをしている。ネット上でのヘイトスピーチを含めれば数万人規模だろう。つまり、悪意のあるデマでも特定の層はそれを信じ込み行動に移すのである。
平野容疑者はこう思っているはずだ。「国の代わりに自分が罰を科してやった」と。平野容疑者はデマを信じ私刑を行ったわけだ。
私刑が恐ろしいのはルールや制限が無いことにある。法に基づく刑というのはきちんとコントロールされているから成り立っているわけだが、私刑は個々の裁量で決まる。私刑が認められるならそれは無法地帯と同じだ。
先日の川崎中1殺害事件でも加害者少年宅に落書きなどの嫌がらせ、つまり私刑が行われている。中には「あんな家放火しろ」などという書き込みも見られる。加害者少年は逮捕されているわけだから、加害者少年本人に対してというよりも加害者家族への嫌がらせだろう。
そして、この落書きを書いた本人や住所を特定してネットに晒した人は思ってもいないのだろうけど、近隣住民にも迷惑がかかっているわけだ。嫌がらせが続けば近隣住民も「いつか巻き添えを食うのでは・・・」と気が気でないはずだ。
巻き添えだけではなく住所や電話番号を勘違いして被害に遭うケースもあるはずだ。深夜のテレビ通販では「深夜なのでお掛け間違えの無いようお願いします」という一文があるのは、それだけ間違う人が多いからだ。間違いで巻き込まれたらたまったものではない。
おわりに
ネットの普及によって命をも脅かす悪質なデマを安易に流す無責任な人が増えたのは大きな問題だ。デマの流布や私刑(特にネット)について厳罰を科すべきではないだろうか。
追記:そもそも「ギャングストーキング」、「電磁波犯罪」ってなに?
平野容疑者の言う「ギャングストーキング」や「電磁波犯罪」とは何か調べてみたのだが、これらについて書かれたサイトがとても胡散臭い。かなりざっくり言うと、いずれも一般的に「知られていない」、「立証できない」ハイテク犯罪であり、具体的には「幻覚」、「幻聴」、「物忘れ」といった被害がある(と彼らは主張している)。
彼らの主張と一致する症状がある。「統合失調症」だ。つまり、我々の常識からすれば、彼らの言う「幻覚」、「幻聴」、「物忘れ」という症状は電磁波犯罪などではなく統合失調症を患っているということになる。
しかし、統合失調症は鬱病と同じく精神疾患なので本当に病気であるかを証明できない。つまり、本当に彼らが言うような電磁波犯罪によって被害を受けている可能性もゼロではないということだ。
それに日本は技術大国なのである。既に脳波を利用して機械を動かす技術が現実に存在するので(参考)、応用すれば電磁波で脳波を操作して危害を加えるようなことも出来てしまうのかも知れない。